「デジタル遺品」戸惑う家族 故人のスマホやパソコン、ロック解除・課金中止できず

2024年11月21日
日本経済新聞 引用

スマートフォンの持ち主が亡くなった後の「デジタル遺品」を巡り、国民生活センターは20日、パスワードなどに関する相談が目立つとの傾向を明らかにした。ネット利用拡大に伴いトラブルが増える恐れがあり、生前に情報を整理し家族に伝えるよう呼びかけた。

「亡くなった兄が生前にネット銀行の口座を開設していたようだが、契約先が確認できない」。2月、東海地方に住む60代の男性が消費相談窓口に問い合わせた。携帯電話会社の店舗では兄のスマホの画面ロックを解除できず、契約先が分からなかった。

故人のスマホやパソコンに残ったデータ、ネットで契約していたサービスなどは「デジタル遺品」と呼ばれる。

2023年の総務省調査によると、スマホでネットを使う60代は78.3%、70代は49.4%。高齢者にネット利用が浸透するなか、デジタル遺品に絡むトラブルが近年目立ってきた。

国民生活センターによると、相談の典型例は故人のスマホのパスワードが分からず、ロックを解除できないパターンだ。アプリで管理していたネット上の資産、契約内容を記したメールといった重要な情報を確かめることができなくなる。

「日本デジタル終活協会」(東京)の代表理事を務める伊勢田篤史弁護士によると、家族に知らせずネット証券で金融取引をしていれば、埋もれた金融資産が分からず相続トラブルに至る懸念がある。

スマホの電話帳を見られず知人に訃報を伝えられなかったり、遺影にふさわしい写真データを得られなかったりするケースもある。

パスワードを知らないとロックの解除は難しい。専門業者に解除を頼めば「ケース・バイ・ケースだが、20万~30万円の費用がかかることもあり、最新の機器であればかなりの時間を要する事態も想定される」(伊勢田弁護士)という。

国民生活センターは「万が一の際に遺族がパスワードを確認できるようにする必要がある」と説明。第三者に知られにくいよう▽紙に記したパスワード部分を修正テープでマスキングして保管▽「パートナーの誕生日」など家族だけが分かる言葉を記載――などの対策を挙げる。

サブスクリプション(継続課金)に関する相談も多い。7月に相談を寄せた80代の女性は夫の死後、クレジットカードの利用明細書に覚えのない約1000円の請求があり、携帯電話会社を通じて請求元を確認。IDやパスワードが分からず、すぐに解約ができなかった。

契約内容が紙ではなくメールで交付されるケースが多いため、国民生活センターはサービス名やパスワードを日頃から整理して家族に伝えるよう求める。財産情報や死後の希望を記す「エンディングノート」を活用して情報をまとめる方法も紹介した。

デジタル遺品が家族に知られたくない内容を含む場合もある。伊勢田弁護士は「必要な情報の所在と対応してほしい内容をエンディングノートなどに分かりやすく残すことがトラブル防止に役立つ」と話す。